CORAポイント

2025年9月27日

グレード4の進行した膝蓋骨内方脱臼(パテラ)症例の術前計画では、CORAというポイントが一つのカギになります。ジュースみたいな名前ですよね。正確には、Center of Rotation Angleの頭文字をとってCORAなのですが、CORAポイントとは、力学的に矯正に最適な骨切りのポイントを示しています。

一般的にグレード3までのパテラであれば通常の術式で対応ができるのですが、グレード4まで進行してしまったパテラでは、骨の変形が強く、通常の術式では術後の再発率が高くなってしまうことが知られています。このような場合、骨の変形を矯正する骨切り術を併用するのですが、CORAポイントを正確に割り出してから骨切りをすると、術後の成績が飛躍的に向上することが報告されています。

パテラは進行性疾患に分類されています。複数の要因が重なることで、グレード1のパテラが時間と共にグレード4まで進行してしまうのですが、その要因の一つに、直接的原因と二時的原因の関連にあります。

直接的(一次的)な要因

  • 四頭筋装置のアライメント不良による脱臼 
  • 大腿骨(骨幹部)の変形による脱臼 
  • 脛骨(脛骨粗面)の変形による脱臼

二次的な要因

  • 一時的な要因を理由に、軟部組織の緊張や弛緩が発生することによる脱臼の悪化
  • 一時的な要因を理由に、滑車溝が発達できないことによる脱臼の悪化
  • 一時的な要因を理由に、骨が湾曲することによる脱臼の悪化

上記のように、いかなる直接的な要因であっても、脱臼を繰り返すことで膝蓋骨周辺の軟部組織や骨へ持続的な影響を与える事で、二次的な要因を新たに発生させてしまいます。こうして複数の要因が組み合わさる事で、ますます脱臼しやすくなるという悪循環が発生し、それに伴って治療法も複雑になってしまいます。

パテラ症例では時間とともに骨の変形が進んでいく

パテラの手術介入時期を考える上でも重要な要素なのですが、パテラの発生要因は、時間経過と共に変わったり、増えたりと、一定ではないという特性があります。元々は、筋肉のアンバランスが原因だったはずなのに、数年後には、骨の変形と筋肉の拘縮が原因になっているという具合です。

脱臼の要因が移ろいでいく原因をイメージしやすい写真があるのでご紹介します。

下の写真は膝蓋骨内包脱臼症例(同じコ)のレントゲン像ですが、左から右へ時間経過とともに年数をかけて骨の変形が進んでいく様子が示されています。初期(左側)の骨の変形は軽度といえます(直接的要因)。軽度の変形を原因に軽度の脱臼(グレード1)が生じている状況です。しかし、軽度であっても年数をかけて繰り返すことで、脱臼方向に筋肉や骨がどんどん引っ張られるように変形(二次的要因)し、変形の悪化に伴って脱臼も悪化して、さらにそれを理由に変形も悪化するという悪循環が続いていきます。骨と筋肉は常にセットでお互いに影響を与え合っているのですが、悪い方向へ影響し合ってしまうのがパテラの本質ともいえます。

ここまでをまとめると

  • 骨と筋肉のアンバランスによって膝のお皿が外れてしまうのがパテラ。
  • パテラ症例では、脱臼方向に発生する異常な牽引力によって、脱臼→変形→さらに脱臼→さらに変形という悪循環に陥っている。

こうした病態を示すパテラですが、通常は、一般的な術式である内側開放術や造溝術、鶏骨粗面転移術を組み合わせることでほとんどの症例が対応可能です。これらの術式は、変形した骨に合わせるように筋肉や膝のお皿を調整することで脱臼を治す方法で、充分に根治的なのですが、骨の変形が一定以上(グレード4)になると調整仕切れないという問題が出てきてしまいます。このような場合、変形の強い骨への直接的なアピローチ(骨切り術)が必要になります。

ここでCORAポイントが登場します。

一般的な術式で一定以上の骨の変形に対応できないのであれば、骨の変形を一定の範囲に納めてしまおうという考え方があります。DFO(大腿骨遠位骨切り術)という術式なのですが、変形の強い場所を切って真っ直ぐにしてしまうという方法です。では、骨のどこを切るのが最善なのか。それを教えてくれるのがCORAです。骨の変形矯正に必要な骨切りの最適ポイントであるCORAポイントを割り出すことで、一般的な術式で対応できる程度に、骨の変形を矯正させることができるDFOがはじめて適応可能となります。

上の写真は同一症例の膝のレントゲン写真ですが、所定の条件の元に引いた2本の線の交点がCORAポイントです。この2本の線は、正常症例の場合はほぼ一致しているのですが、変形程度に比例して不一致の角度も増加していきます。上記の症例では、180°ー163.9°で16.1°分の骨変形がCORAポイントを中心に発生していることが算出されます。

下の左の写真では、CORAポイントにおける変形程度(角度)を算出した後に、その角度を持った楔型で骨を抜き取り(骨切り)、右の写真では、抜き取った後に、骨を接合することでの正しく変形が矯正されるのかを事前にシュミレーションしています。

シュミレーションで得られた情報を基に、通常の術式で対応できるようにするために、どの程度の骨切り(DFO)が必要なのかを決定していきます。

骨の変形が、例えば一本の骨上で均等に発生している場合であれば、どこを切っても同様の矯正ができると思いますが、実際の骨の変形は不均等で、変形のない箇所や軽度変形、強度変形箇所などが混在しています。変形のないところで骨切りをしてしまうと、効果がないばかりかパテラを悪化させてしまうこともあります。さらに、術中は、感染や術後回復の観点からも骨の露出は最小限に留めるため、骨は全体の一部しか見えていません。

冒頭でジュースみたいな名前と軽率に例えてしまいましが、CORAポイントは、正確に割り出せればとても有用なポイントになると同時に、不正確な割り出しが病態の悪化に直結するという、とても怖いポイントともいえますね。

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