ビタミンと整形疾患との関係については、近年までに色々な発見や報告があります。日光浴をしたら、ビタミンDが合成されて骨が強くなるという事は、人で昔からよく言われてきましたが、各種ビタミン類が、骨の維持のみならず、関節軟骨や筋肉の維持や再生、慢性関節炎の疼痛緩和にまでと、様々な効能があることはあまり知られていないかもしれません。
この記事では、各種ビタミンの整形疾患に対する有効性や、ビタミン摂取方法などについてまとめていきます。
まずはじめに、主なビタミンの種類と動物種差別
水溶性ビタミン:ビタミンB、C
水溶性ビタミンは過剰投与による中毒が起こらないビタミンです。
脂溶性ビタミン:ビタミンA、D、E、K
脂溶性ビタミンhが過剰投与による中毒が起こるビタミンです。
動物種差
ビタミンD
人と犬は日光浴でビタミンDを合成できるのですが、猫は食事による摂取に依存しています。しかしながら犬も人と比べると合成能は弱いと考えられていることから、適切な量を食事やサプリメントで補給する必要があります。
ビタミンC
人はできないのですが、犬と猫は腸管でビタミンCを合成することができます。しかし犬猫であっても、疾病や慢性ストレス、老化によりその合成能が低下することが知られています。骨折や慢性関節炎、OA(変形性関節症)などの強い慢性的な肉体的ストレス下では、ビタミンCの補給に意義が合
○ビタミンCの基本効能
抗酸化作用のビタミンC
体も鉄のように錆びる(酸化)事が知られていて、錆によって病気や老化が引き起こされるという考え方をする事ができます。錆びる原因として、活性酸素が挙げられます。
活性酸素は、呼吸によって取り込まれた酸素の一部が変わったものです。本来、活性酸素は、免疫に関わる有益な反応をサポートする役割を持つのですが、長期的な肉体ストレス下(慢性痛やOA)では活性酸素が過剰になることがわかっています。過剰となった活性酸素は、細胞やDNAに対して、『酸化』という傷をつけてしまい、組織の炎症反応や劣化を助長したり、老化の原因となってしまいます。ビタミンCはこの『酸化』に抗う作用を有するために抗酸化作用があると言われています。
○整形疾患におけるビタミンCへの期待
コラーゲンの合成をサポート
骨の強度や柔軟性を決定するコラーゲンを合成する反応を促進させ、関節軟骨の代謝や、骨量や骨強度を保つ役割を担っています。しかしながら、慢性関節炎やOAを発症していたり、高齢という条件下では、ビタミンCの合成能が落ちていると考えられています。高齢になってからの整形外科治療後は、まさに『弱り目に祟り目』という状態です。
高齢のコが術後、可能な限り早期に通常生活に戻ることは、整形疾患からの回復に留まらず、脳や内臓の健康のためにもとても大切な事です。回復が遅れている場合、水溶性ビタミン(過剰接種による中毒の心配がない)であるビタミンCを積極的な摂取することで、抗酸化作用に留まらず、整形疾患からの回復も早めるというメリットがあります。
OA(変形性関節症)の進行軽減作用
慢性関節炎やOA症例では、過剰となった活性酸素によって、OAがさらに進行し、進行したOAによってさらに活性酸素が過剰となり、という悪循環が発生している可能性が指摘されています。上述のように、肉体的ストレスや老化下では、ビタミンCの合成能が低下しているため、ビタミンCを摂取することで慢性関節炎やOAの進行軽減作用が期待できます。
滑膜炎の軽減作用
一度発生すると内科療法では進行を止めることが難しい滑膜炎は、慢性関節炎やOAの進行期から末期に現れる痛みの強い関節炎のことをいいます。こうした中、ビタミンCに、滑膜炎の軽減作用があることが近年になって人医療で報告されるようになってきています。これまで、滑膜炎の軽減には、滑膜炎の原因となるOAに対する外科治療を行うか、作用機序があまりわかっていないカルトロフェンという薬が主な対応でしたが、ビタミンCを補助的に併用する事で、痛みの軽減作用のみならずOAの進行を低減させる作用も期待できます。
ビタミンCは水溶性ビタミンに属するため、過剰摂取による中毒の心配がないビタミンです。合成能のない人もかもですが、高齢を理由だけでも、サプリとしてビタミンCの摂取習慣をというのも良いかもしれません(ちなみに私は毎日ビタミンCのサプリメントを飲んでいます!)
ビタミンC摂取の注意点
犬や猫では明確に証明された報告はないようですが、人ではビタミンCの過剰摂取が、尿路結石の発現に因果する報告がなされています。小型犬や猫ちゃんの場合には、理論的リスクとして、投与量の厳守や、定期的な尿検査をお勧め致します。
ビタミンCの多い食材
ブロッコリー、パセリ、イチゴなど(栄養成分表でグラム単位の含有量を見てみましょう!)
○ビタミンDの基本効能
骨の主成分であるカルシウムの吸収に重要な役割
ビタミンDは小腸におけるカルシウムの輸送体を機能させることで、食事中のカルシウムを効率よく吸収できるようにしてくれています。
○整形疾患におけるビタミンDへの期待
筋肉の増強作用のサポート
筋蛋白合成作用や筋繊維再生への関わりがあることが知られています。外科後の筋力回復に有益である可能性が指摘されています。特に、高齢になって外科が必要になった場合は、術後の活動量の低下に伴う筋萎縮が問題になりやすいのですが、筋肉量の維持は、手術の成否と同様に、術後回復に大きな影響を与えます。
整形外科に限らずですが、術後回復が遅れることには様々なデメリットがあります。回復の遅れは、運動量の低下に直結するのですが、体は動くことで正常な恒常性が保てるように設計されています。例えば血液循環も単に心臓が鼓動することで行われているわけではなく、四肢の筋肉の収縮によってもサポートされています(『足は第二の心臓』)。老齢になって急に動かなくなると様々な程度の循環の低下を招き、血液循環によって健全性を保っている体の全ての臓器は、不健全の方向にベクトルを傾けてしまいます。
中年齢以降の外科後の回復の遅れに対しては、体を動かすように仕向けるリハビリテーション、各種痛みを管理する治療(薬やレーザー治療など)に加え、積極的にビタミンDを補給することで、回復促進の力になってくれる事が期待できます。ただし、ビタミンDは脂溶性ビタミン(過剰投与で中毒)に属し、良質なドックフードを給餌している場合には既に必要量を摂取している可能性がありますので、摂取量には注意が必要です。
骨の形成のサポート
カルシウムの吸収によって骨を丈夫にするという作用に留まらず、骨を作る細胞である骨芽細胞や軟骨細胞の分化の調整作用もあることが知られています。不足した状態では、カルシウムをしっかり含んだ食事であっても、吸収力が弱かったり、骨の形成力にも活気を欠いてしまいます。食べているフードのビタミンD含有量を一度チエックすることをお勧めいたします。(摂取量は下記参照ください)
ビタミンDの多い食材
卵、イワシやサバの水煮缶、サーモンなど
○ビタミンEの基本効能
抗酸化作用の主役ビタミンE
ビタミンCが活性酸素を中和する抗酸化作用に関して上述しましたが、実はビタミんCは抗酸化作用においては立役者に過ぎず、活性酸素による細胞への攻撃を直接止めているのはビタミンEの働きによるものです。ただ、ビタミンEには持久力がないという問題があり、ビタミンCは、この持久力の弱いビタミEに体力を補給してくれているという関係です。
○整形疾患におけるビタミンEへの期待
骨折治癒のサポート
抗酸化作用という点では、ビタミんCと同様なのですが、骨や軟骨の保護や修飾作用も期待できます。実際に、骨折症例を集めた臨床試験においてもビタミンEを投与したグループでは骨折の治癒が早まる報告がされており、骨折治療にとって有効な補助治療として注目を集めています。興味深いことに、関節炎が生じている関節内では、正常関節と比較してビタミンE濃度が高くなっていることが報告されていることから、ビタミンEの有用性が裏付けられます。同じ理由で、慢性的な酸化ストレス下(慢性的な整形疾患)では、ビタミンEの消費が亢進している可能性があることからビタミンEの必要量を確実に満たすことが重要です。
関節炎の軽減をサポート
ビタミンEを投与することによって関節炎の炎症マーカーが低減することが報告されています。抗炎症作用のある副作用の少ない薬剤も登場していますが、年単位の長期使用における安全性はまだ担保されていません。そのため、ビタミンEを食材やサプリメントでうまく利用することができれば補助治療として以上にとても魅力的です。
効果を最大限にするためには、ビタミンCと一緒に摂ることがポイントです。
ビタミンEの多い食材
アーモンドや植物油系の食材となるのですが、これらの食材は賛否両論あるかもしれません。食材で摂取する場合は、各種情報をよく精査して挑んでください。(私の愛犬には時々アーモンドをあげています)
○ビタミンKの基本効能
血液の凝固機能に重要なビタミンKが、骨や関節にとっても重要な働きをしてくれています。
○整形疾患におけるビタミンKへの期待
骨の治癒速度の促進をサポート
骨折の治療や、骨切りを伴う整形外科においては、術後の骨の再生力は手術の成功の鍵を握ります。ビタミンKは、骨を作り出す細胞が、骨の基材であるカルシウムを取り込むことを助けてくれており、骨の癒合速度を早める効果があります。また、骨折リスクの軽減作用が人医療で報告されていることから、手作り食を与えている場合には、必ずビタミンKの摂取量を計算しておきましょう。骨折や骨切りが必要な手術をお受けになる場合には、ビタミンKも重要ですね。
慢性疼痛の軽減をサポート
炎症を媒介する特定の物質を抑制することが報告されており、抗酸化作用とは異なる抗炎症効果による疼痛緩和作用への期待がされています。
外科対応が難しいから高齢のコの慢性関節炎などでは、若いコと比較して内服が使いづらい場合も多く、補助治療や代替治療としての利用も積極的に考えられます。
なお脂溶性ビタミンのため、摂取量注意です。
ビタミンkの多い食材
あげれる食材で多いと言えるのはワカメくらいですが、体質に合わない場合には下痢嘔吐が出ることも。大豆製品も多い部類です。
○各ビタミン摂取量
(それぞれ単位の違いにご注意下さい)
ビタミンC:最大40mg/kg/日
ビタミンE:最大20mg/kg/日
ビタミンD:報告別れる。安全圏0.0035μg/kg/日
ビタミンK:最大3mg/kg/日
○摂取量の計算方法
小型犬の場合、完全手作りで治療用量まで食材だけで摂取することは、一度に食べられる量の制限より難しい場合があります。上手にサプリメントと併用しながら、自然食材のビタミンも摂取すると良いと思います。以下の計算方法はドックフードを利用している場合の例です。
① 現在のビタミン摂取量の把握
まずは現在の食事のパッケージに書いてある各種ビタミン類の量を確認する。
②ビタミンの追加可能量を計算
上の計算式で計算したビタミン量から、①のビタミン量を引き算してみましょう。
③計算結果を紙に控える
引き算で出た値が、追加摂取可能なビタミンの量です。
④食材のビタミン量を調べてみよう
ネット上で見やすい栄養成分表を探し、それぞれの食材のビタミン量を見てみましょう。犬猫に与えらるものなのか、摂取量を満たすためにどのくらいの量が必要なのかを検討。
⑤トッピングする食材やサプリメントの量を決定
栄養成分量とにらめっこしながら、③で計算したビタミンの追加摂取可能量まで、各種食材の選択や量を決めましょう。食材だけでは量的に難しい場合が多いため、ビタミンのサプリメンも上手に使ってみてください。(完全 手作り食の場合、調理している各種食材の量から、予め現在摂取しているビタミン量を算出し、その上で、目的のビタミンの目標量を満たすように、食材またはサプリメントを追加しましょう。
⑥注意点
小型犬や、アレルギー、尿路結石などの持病がある場合には必ずホームドクターに予め相談してから摂取計画を立ててください。
ワンポイントアドバイス
- 各種ビタミン類は、健康な状態で良質な食事が摂れている場合には、追加の食材やサプリメントなどでの追加は原則不要です。しかしながら、疾患状態(慢性関節炎や骨折、整形外科後)や老化に伴う諸変化を伴っている場合には、上手なビタミンの追加が有効です。まずは現在の食事のビタミン量を計算してみることをお勧めいたします。
- ビタミンCとEを同時に摂取する際には、オメガ-3脂肪酸(サバ、イワシ、アマニ油、サプリメント(アンチノールなど))を併用することで、関節炎の消炎効果がさらに増強されます。
- ビタミンKとDは同時投与で骨の治癒効果が増強されるので、骨折や骨切りを伴う整形外科を受けた場合には、最大投与量を超えないようにサプリや食材のトッピングをしてあげると良いです。
注意点
- 脂溶性ビタミンA、D、E、Kに関しては必ず獣医師の指示に元与えて下さい。
- 様々な食材を試す場合、体質によってはアレルギー反応(皮膚炎、外耳炎、下痢など)が出ることがあるため、異常を感じた場合には必ず動物病院を受診しましょう。
- 小型犬の場合、緑黄色野菜やタンパク質を多く摂ることによって体質によっては、尿路結石が問題となることがあります。様々な食材からビタミン摂取を試みる場合は定期的な尿検査をお勧めいたします。
慢性関節炎やOAなどに対して、標準的な治療でうまくいってない場合、ぜひ積極的にビタミン摂取を検討してみてください。特に、高齢になって運動量が落ちてきてしまっているコには役に立つはずです!
獣医師:伊藤







