TPLOの合併症 

TPLOには様々な合併症があります。詳しくは、以前の記事『最強のTPLO』について記載させていただきました。ただ、記事で書かれている合併症は、基本的にはTPLO手術がうまくいった後に発生しうる合併症に対して書かれたものでした。

しかし、最大の合併症とも言える問題は、TPLO手術そのものがうまくいっていても、前十字靭帯断裂の症状が治らないというケースかもしれません。手術をしても症状が治らない理由は色々あるのですが、その中でも、今回は『eTPA症例』というものについてまとめてみます。

e TPA症例とは?

eTPAの『e』は、エクセッシブの『e』、『TPA』とは、脛の骨の角度を表しています。二つの意味を合わせて、過剰な脛の骨の角度を持つ症例という意味になります。eTPA症例は、通常のTPLO手術では対応が困難で、通常TPLOで挑んでしまうとうまく治りません。

なぜ、過剰な角度(TPA)が問題になるのか?

下図のように、大腿骨(黄色〇)は脛骨の上に乗っているのですが、脛骨は、例えると三角形のような構造をしています。三角形の上に、大腿骨がバランスを取って乗っています。アンバランスではありますが、運動性能を考えた場合には理想的な形になっています。

バランスを取るためには、前十字靭帯が重要な役割をしています。そのため、前十字靭帯が断裂してしまうと、バランスをとる事が出来なくなってしまいます。

TPLO手術では、この三角形をより平坦(5度)にすることで靭帯に頼らないでもバランスを取れる事を目的に、骨切り回転移動という手法を行います。三角形の角度が大きければ大きいほど、骨切り回転移動量も大きくなるのですが、TPLO手術では、移動量に比例して合併症の発生リスクが増えるという側面があります。

そのため、eTPA症例は、過剰な脛の骨の角度を持っているために、骨切り回転移動量が多い=合併症が多いという事になります。

では、eTPA症例に対してTPLOを行なわなければよいのでは?と思うかもしれないかもしれません。しかし、eTPA症例に対していろいろな対策が考案はされているものの、なかなか完全な対抗策がないのが現状です。

eTPA症例の難しいところ

  1. 完全な対抗策がなかなかない
  2. TPLO手術では骨切り回転移動量が大きく、骨の癒合不全やプレート破損が発生しやすい
  3. 上記合併症を警戒し、骨切り回転移動量を少なくなくすると症状が治らない
  4. TPA(三角形)の角度測定の検査誤差は4度前後と意外と大きく、そもそもeTPA症例が見逃されてしまうことがある

骨切り回転移動量が多くても少なくても、通常のTPLOでは合併症が多く出てしまうし、そもそも検査誤差が4度と、eTPA症例と気付けない可能性もあることから、eTPA症例の存在は、犬の前十字靭帯断裂の外科においては、大きな難題の一つです。


では、どうしたらよいのか?

これまでにも先人の獣医師達が失敗と成功を繰り返しながら様々なeTPA対抗策を考案してきてくれました。どの方法にも良い所や悪い所はあり、術者の好みの分かれる部分もあるのですが、外科全般に共通して言えることは、手術によるダメージが少なく、同一の効果が得られる方法が良い方法と思います。

いくつかあるeTPA対抗策の中で、今回は、骨へのダメージが少なく、通常のTPLOよりも術後の安定性の高い、ダブルカットTPLOと呼ばれるものをご紹介させていただきます。

二つの手術を一つの傷でできてしまうダブルカットTPLO!

一見すると、TPLO手術(TPLOの手術に関してはコチラ)をダブルで行うような術式名ですが、TPLOの矯正原理に加え、TPLOの術式をそのまま流用して全く異なる原理を併用してしまうという、すごい発想の術式です。二つの手術を一つの傷(骨ダメージ)でやってのけてしまいます。

原理は簡単で以下の二つの図で表すことができます。

まずは、TPLOの基本の確認です。

TPLOとは、靭帯によって安定化されている、角度のついた脛の骨(三角形)に対して、骨切り回転という方法で三角形部分を前方に移動して、角度を和らげる事で靭帯に頼らない安定を作ろうというものです。

下の右図のように、弧を描くように骨切りを行って、回転するように移動すると、三角形の角度(脛の骨の角度)が変わる事を利用する方法です。移動する距離は、そのコそのコの三角形の角度(TPA)に比例して大きくなります。

注目点は、上の左図が示すように、脛骨(脛の骨)が、三角柱状になっているということです。

前方に移動すればするほど、三角柱同士の重なり部分(オレンジ)が先細りに細くなっていきます。ここにTPLOの弱点があります。

なぜなら、切った骨を再び癒合させるためには、『最低限』の重なり部分が必要だからです。オレンジの部分が細くなりすぎると骨が癒合しなかったり、接合のための使用するプレートに過剰な負荷が集中などの問題が発生してしまいます。

上記を警戒して移動を少なくしてしまうと、今度は前十字靭帯断裂による症状が治りません。TPLO手術では、『ちょうどよい移動距離』を見つけないといけないのすが、eTPA症例ではどうでしょうか?

eTPA症例とは、三角形の角度が大きい症例でした。そのため、骨切り回転移動量も大きくなるのですが、上図で言えば、重なり部分(オレンジ)が極端に小さくなってしまいます。TPLO手術単独で、平らになるまで移動をしたら、合併症が出てしまうことは必至です。でも移動が足りないと治りません。eTPA症例では『ちょうどよい移動距離』が見つからないという問題が発生してしまいます。

ダブルカットTPLOでは、この問題に対して、画期的な方法でこの問題を乗り切ります。

原理はとてもシンプルです。

下図の青い長方形を骨として、緑の線が脛の骨を傾き(TPA)として見てみてください。長方形(骨)から三角形(クサビ状の骨片)を抜き取って合わせると、骨を前に移動させなくても緑の線(TPA)の傾きが大きく変わるのがわかります。

この原理を利用して、ダブルカットTPLOでは、まずは上図の方法で、骨の移動に頼らずに過剰『e』な角度部分を矯正してしまいます。

その後、平均的なTPA(脛の骨の角度=三角形)になった脛の骨に対して、通常のTPLOを行うことで、重なり部分をできるだけ大きく残すことができる方法です。しかも骨の傷は一か所になるという、とても画期的な方法ですね。

ここまでを整理すると、

  • eTPA症例=過剰なTPA(脛の骨の傾き=三角性)を持つ症例
  • TPLO手術=傾き(TPA)を平らにするために、骨を切って前方に移動させる手術
  • 過剰な傾き(TPA)を持つeTPA症例では、骨を切って、大きく前方移動が必要
  • TPLO手術では、骨を移動させ過ぎると骨が癒合せず、移動が足りないと症状が治らない
  • ダブルカットTPLOでは、移動を最小限に、角度を最大限に変える事ができる

術前計画の実際

まずは、下の左図が示すようなクサビを所定の計算を基に決定します。ついで、クサビを切り取って、骨を接合させると、右図の黄色矢印で示された角度だけ緑の線(TPA=脛の骨の傾き)が変わります。

例えば、三角形を平らにするのに30度矯正する必要があった場合、TPLO単独で矯正してしまうと、安全な骨の移動の限界を超えてしまい、骨の重なり(オレンジ)が極端に小さくなってしまいます。上図のクサビ抜きによって、10度分が矯正されたとすると、TPLOで残りの20度分だけ矯正すればよいことになります。

20度分であれば、骨の移動の限界を越えないため、骨の重なりは十分に保たれることになります。

クサビを切り取ったら、下の図の通常のTPLOを実施します。

目標とするTPAが同じであっても、クサビの処理(ダブルカットTPLO)を予めした左の写真の場合と、してない右の場合(通常TPLO)とでは、移動の距離(黄色矢印)に大きな差が生まれます。

手術の実際

左:術前計画で設定したクサビを決定
中:クサビを抜き取る
右:回転を加えて接合。赤色の点々が示すように傷は一か所

二つの手術をしていても、プレートで固定をする頃には、通常のTPLOと変わらない仕上がりです。

ダブルカットTPLOでは、eTPA症例であっても骨の移動の安全範囲を守ることができるため、術後の骨の安定性を高く保つ事ができます。

TPLO手術での最大の合併症は、手術そのものがうまくいっていても症状がうまく治まらないケースかもしれません。その多くが、回転量の過不足であったり、eTPA症例の見逃しからきているかもしれません。常にeTPA症例の潜伏を念頭に、回転矯正の角度や移動量に対して、術者が神経質すぎる位の意識を向けて、術前計画から術中評価まで行うことが、基本かつ最も重要な事と思います。

整形外科の場合、一発で100%、完全な治癒を必発でという事は、残念ながら難しい場合もあります。ただ、それを目指して誠心誠意、動物達に向き合うことが我々動物病院の大切な役目と考えています。

最後に

脛の骨の角度(三角形=TPA)が何度以上でeTPA症例と定義されるかは報告により差はありますが、当院では34度以上をeTPA症例としています。TPA測定の測定誤差は±4度ですから、TPA31度と測定した症例が実は35度であったり、37度でeTPA症例と判断した症例が実は33度であったりと、TPAの角度算出には、やや不確かな部分があります。

こうした誤差を最小限にするためには、可能な限り正確なレントゲン撮影が重要と言われています。正確な測定のためには、特別な場合を除き鎮静化での特殊な姿勢での撮影が必要になります。手術でも麻酔が必要なのに、検査でも麻酔(鎮静)という気持ちになってしまいますが、正確な検査には大きな意義があるため、原則、当院でも麻酔下でのレントゲン検査を推奨しています。

最後の最後に

(手前味噌のようにはなってしまいますが・・・)

実際の骨のクサビを紙と比較した写真です。
下の写真の場合、クサビの厚みは1.6ミリです!


休みの日にも、一緒に膝の勉強会で技術の研磨に励んでくれるスタッフ達の手術支援技術と、OPE時間の確保に奔走してくれる看護師のみんながいないと達成できない手術です。(正確なクサビ抜きには、術者以外の目と手が複数必要で、クサビを抜く時の術者(私)の役割は、ただ特殊な機器をもって動かすだけなんです💦。)

改めて、一緒に勉強をしてくれる膝チームの看護師達と、現場で走り回って手術のサポートをしてくれる看護師のみんなに、心から感謝です。

本当にありがとう。

変な終わり方になってしまってすみません💦

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