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最近は、『AIに相談して“○○病”が疑われるから受診しました』という飼い主さんもずいぶんと増えてきました。愛犬、愛猫の不調を症状で検索すると、鑑別疾患や必要な検査が出てくるだけではなく、AIから追加の質問に回答すると、さらに鑑別精度を上げて診断に導いてくれます。
知識や経験を蓄積して、動物達や飼い主の方々に貢献する立場にある我々がAIに頼るわけにはと、AI誕生以降ずっと考えていた事ではありますが、先日、NHKか何かの番組で、人の医療現場とAIに関する医療特集の中で、一つのフレーズがとても印象に残りました。
『近い将来、AIを使いこなす医師と、AIを使えない医師に分かれるだけだ』というような表現でした。
その言葉に、妙な納得感を覚えました。
正直、どれだけ我々が勉強を重ねても、『知識』という分野だけでみたら、人が25年かけて積み上げてきたもの(たとえば私の場合、卒業後25年)も、AIは一瞬でそれを凌駕し、今や誰もが、25年分以上の『知識』を簡単に入手できる時代です。
それでも、我々が目指している獣医療が、AIに取って代わられる事はないと信じていますが、確かに、我々もAIを味方につけた仕事の仕方の模索が必要なんだろうなぁ、と感じる今日この頃です。
そこで、整形疾患の問診でよく遭遇する言葉である『急に後ろ足がびっこになった場合の原因』をAIで私も検索してみました。
急な後ろ足のびっこ(AI ver)
まずは原因をAIが列挙してくれます。
- 肉球、爪の怪我
- 捻挫や筋肉の痛み
- 膝の怪我(前十字靭帯や膝のパテラ)
- 股関節のトラブル
- ヘルニア
- 骨折
- 関節炎
- その他
さらに、早めに受診した方がよいサインや家でできる対応なども教えてくれます。
その後、『もしよければ教えてください』とAIに以下のような質問をされました。
- 犬種
- 年齢
- 体質
- 突然まったく足をつけないのか、それとも少しはあるけるのか?
- きっかけは?
関心させられるのはここからです。
例えば、臨床医(私)が前十字靭帯断裂の典型的な症例を思い浮かべて回答すると、AIは迷わず、『最も疑うのは前十字靭帯断裂です』と言ってきます。同じように、ヘルニアを想定して回答すると、『ヘルニアを疑います』と即答。必要な検査のアドバイスもほぼばっちり・・・。
医療のように、統計学や文献ベースの『知識』という分野では、AIの『情報』の安定感は非常に高いですね。
でも、気になるのはその情報量。
瞬間的に大量の情報が入ってくるので、理解できたようなできないようなという感覚に獣医師の私でもなってしまいます。また、実際の臨床現場では、鑑別に入れないような疾患でも鑑別疾患として羅列されてしまうので、現実的には必要性の低い検査も普通の事のように提案されてしまうという側面もあります。
また、網羅的な解答としては、人の能力を超えてかなり優秀ですが、目の前の動物達や個々のオーナーの価値観に沿うように大量の情報を取捨選択する事は、それぞれの国や地域、年齢差などからくる人の文化や価値観を理解した『人』の役割なんだとも感じました。
大量の情報提供だけではなく、必要な判断や行動にまで影響を与えつつあるAIの躍進の中、我々臨床医が求められる未来像は、確かにこれまでとは変わるんだろうなと思います。
専門的な情報が専門職の独占から、よりオープンなものとなり、その情報の渦の中を、うまく泳げるように先導する役割も必要になってきそうですね。
では、臨床医の視点から『犬 後ろ足 びっこ 原因』の情報を簡単にまとめてみます。
急な後ろ足のびっこ(臨床医 ver)
急な後ろ足の跛行のよくある原因は?
後肢跛行には様々な原因があります。しかし、同じ症状であっても、小型犬か大型犬、発生時期が若齢か成犬かによって疑うべき疾患が変わります。
さらに北海道のように他の都道府県と比較して、愛犬を思いっきり走らせてあげられる環境が多い地域と都心部とでも発生の多い疾患が変わる地域特性の理解も重要となります。
犬種で検討するべき代表的疾患(多い順)
- トイプー
パテラ、前十字靭帯断裂、大腿骨頭壊死症 - チワワ
パテラ、大腿骨頭壊死症、前十字靭帯断裂 - ダックス
ヘルニア、前十字靭帯断裂、パテラ - 柴犬
前十字靭帯断裂、パテラ、股関節形成不全 - ゴールデン
前十字靭帯断裂、股関節形成不全、肘関節形成不全 - ラブ
前十字靭帯断裂、股関節形成不全、肘関節形成不全
年齢別で検討すべき代表的疾患

診断方法
各疾患の診断方法は、AIもかなり正しく答えてはくれます。しかし、たくさんある鑑別疾患それぞれに、それぞれの検査をしてしまうことは、時に動物や飼い主の方々にとって大きな負担となってしまうこともあります。
そのため、実際の臨床現場では、飼い主の方々の観察(稟告内容)と、獣医師による問診や触診によって、多くの場合で疑わしい疾患を1~2個つまで絞り込むことができます。絞り込んだ疾患から優先的に検査を行い、診断結果と症状の合致がなければ、再度の絞り込みを行い必要な検査を行う。
日々の診療の中では、このような方法で動物達の診断や治療が行われています。
最後に
問診や触診は、経験によってのみ養われるAIにはできない技術として、動物達にとって、もう一つの貴重な『情報』として大いに役立ってくれています。
革新的な技術であるAIが持つ情報量と、伝統的な技術である問診力や触診力による情報は、相反するものではなく、組み合わることによって、人の医療のみならず獣医医療においても飛躍的な力になっていくのであろうと私は思います。
難しいのは、伝統的な技術は、先に正解(AIの大量の情報量)があるとなかなかつかないことではないかと思っています。
わからないからこそ一生懸命に予想して聞く(問診) わからないからこそ一生懸命に想像して触る(触診)
わからないからこそ身につく技術があるはずです。
膨大な情報を『答え』と勘違いしてしまうと、『わからない=一生懸命』が医療から消えてしまいそう不安は未だ払拭できてはいません。
獣医師が、動物や飼い主の方々のために一生懸命に仕事に従事する。
この当たり前を、どんな時代になっても残さないとですね。







