関節への持続的な負担や体型、年齢などによって、関節内で炎症や組織の変化が続いてしまうと、関節の安定性を担う重要な構造物である関節軟骨の障害が少しづつ進み、軟骨下骨や滑膜などにもその影響が広がっていきます。こうして関節全体に非可逆的な変化が進行し、関節の変形を伴う慢性の痛みを呈する病態を変形性関節症(OA)と呼びます。
OAは一度発症すると根治的な治療はなかなか難しいと考えられていますが、2026年、人医学の世界で、mRNAを用いた臨床研究の報告があり、OAの発症、進行を予防できるかもしれないという興味深い内容のものでした。
獣医学では、PPS治療(後述)というOA進行を抑制する内科治療があるものの、詳細の薬理効果や有効性には不明点も多く、動物のOAの内科療法は、まだまだ発展途上にあるという事ができます。
mRNAを用いた治療については、別の機会にご紹介させていただきますが、今回の記事では、改めてOAについて、Q&A方式でまとめさせていただきました。
お時間のある時に、是非お読みいただければと思います。
目次
- Q1. 変形性関節症(OA)ってどんな病気?
- Q2. OAは高齢犬だけの病気ですか?
- Q3. OAになると、どんな症状が出ますか?
- Q4. OAの何がそんなに問題なのですか?
- Q5. OAの痛みは、なぜなかなか治らないことがあるのですか?
- Q6. 一度OAになったら治らないのですか?
- Q7. OAの治療にはどんなものがありますか?
- Q8. カルトロフェンVetとはどんな治療ですか?
- Q9. 前十字靭帯断裂やパテラは、早く治療した方がいいのですか?
- Q10. 痛そうでなければ様子を見ても大丈夫ですか?
- Q11. OAで一番大切なことは何ですか?
Q1. 変形性関節症(OA)ってどんな病気?
変形性関節症(OA)は、関節の軟骨だけでなく、滑膜、骨、靱帯など関節全体に少しずつ変化が起こり、痛みや動きにくさにつながる病気です。
関節の表面を覆う軟骨には、骨同士を滑らかに動かしたり、歩いた時の衝撃を吸収したりする大切な役割があります。
OAが進行すると、軟骨の構造が壊れ、関節内に炎症が起こり、さらに軟骨が傷みやすくなるという悪循環が生じます。
Q2. OAは高齢犬だけの病気ですか?
いいえ。
加齢によって起こることもありますが、犬では前十字靭帯疾患、膝蓋骨脱臼(パテラ)、股関節形成不全、肘関節形成不全など、関節に異常な負担がかかる病気に伴ってOAが進行することがあります。
そのため、若い犬や中年齢の犬でもOAがみられることがあります。
Q3. OAになると、どんな症状が出ますか?
代表的な症状には、
- 散歩に行きたがらない
- 元気や意欲がない
- 立ち上がるまでに時間がかかる
- 階段や段差を嫌がる
- 足をかばう
- 歩き始めがぎこちない
- 遊ぶ時間が減る
- 寝ている時間が増える
- 抱き上げたり関節を触ったりすると嫌がる
などがあります。
犬は痛みを隠すこともあるため、「年を取ったから動かなくなった」と思っていた変化が、実は関節痛だったということもあります。
Q4. OAの何がそんなに問題なのですか?
大きな問題は、一度大きく傷んだ関節軟骨は、元の正常な状態に戻すことが非常に難しいことです。
軟骨はもともと修復能力が高い組織ではないため、ある程度以上の損傷が起こると、その変化が残ってしまうことがあります。
さらにOAは、単に「関節の形が変わる病気」ではありません。
関節内の炎症や周囲組織の変化が続くことで、痛みそのものが慢性化することもあります。
つまりOAの問題は、関節の構造が壊れていくことと、痛みが長く残ることの両方にあります。
Q5. OAの痛みは、なぜなかなか治らないことがあるのですか?
OAの痛みは、単に「軟骨がすり減っているから痛い」というものではありません。
関節内の炎症、軟骨の下にある骨の変化、関節包や周囲組織の異常など、いくつもの原因が重なって痛みが生じます。
さらに、痛みが長期間続くと、**痛みを伝える神経そのものが過敏になる「疼痛感作」**が起こることがあります。
この状態になると、本来なら強い痛みを起こさない程度の刺激でも痛く感じたり、関節の炎症がある程度落ち着いても痛みが残ったりすることがあります。
OAでは、
関節が傷む
→ 炎症が続く
→ 痛みが続く
→ 神経が過敏になる
→ さらに痛みを感じやすくなる
という悪循環が起こることがあります。
そのため、進行してから痛みだけを抑えようとしても、十分にコントロールできない場合があります。
Q6. 一度OAになったら治らないのですか?
現在の治療で、痛みを軽減したり、動きやすくしたり、関節への負担を減らしたりすることはできます。
ただし、すでに大きく傷んだ軟骨を完全に正常な状態へ戻したり、OAの進行を確実に止めたりする治療は、まだ確立されていません。(次回の記事で、OAに対する最新の取り組みをご紹介予定です)
そのため、OAは「ひどくなってから治療する」よりも、できるだけ早く異常を見つけ、関節を守ることが重要です。
Q7. OAの治療にはどんなものがありますか?
症状や原因によって異なりますが、
- 体重管理
- 適切な運動
- リハビリテーション
- 鎮痛薬
- 関節を保護することを目的とした薬剤
- 原因となる整形外科疾患への治療
などを組み合わせて管理します。
OAは一つの治療だけで完全に解決することが難しいため、その犬の状態に合わせて複数の方法を組み合わせることが重要です。
Q8. カルトロフェンVetとはどんな治療ですか?
カルトロフェンVetは、犬のOAによる痛みや跛行の治療に使用される注射薬です。
有効成分は**ペントサンポリ硫酸ナトリウム(PPS)**で、単純な鎮痛作用だけではなく、関節内の炎症や軟骨代謝など、OAに関係する複数の過程に作用すると考えられています。
そのため、OAの症状を和らげるだけでなく、関節そのものへの作用も期待されている薬剤です。
ただし、カルトロフェンVetを使用すればOAの進行を完全に止められるというわけではありません。
PPSがどの程度OAそのものの進行を抑えられるのかについては、まだ十分に確立されていない部分もあります。
参考文献:
COAST Development Group’s international consensus guidelines for the treatment of canine osteoarthritis
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10436090/
Q9. 前十字靭帯断裂やパテラは、早く治療した方がいいのですか?
前十字靭帯疾患や膝蓋骨脱臼など、関節に異常な負担をかけ続ける病気では、時間とともにOAが進行することがあります。
犬の前十字靭帯疾患では、部分断裂の段階で治療された膝では、完全断裂した膝と比較して、その後のOA進行が緩やかだったという報告があります。
参考文献:
Long-term outcome and progression of osteoarthritis in uncomplicated cases of cranial cruciate ligament rupture treated by tibial plateau leveling osteotomy in dogs
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32448811/
また、犬の膝蓋骨内方脱臼では、年齢、脱臼の重症度、症状が続いている期間などと関節軟骨の損傷の程度に関連が認められています。
参考文献:
Medial patellar luxation induces cartilage erosion in dogs: a retrospective study of prevalence and risk factors
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39250933/
そのため、OAが大きく進行する前に、関節へ異常な負担をかけている原因を治療することが重要になる場合があります。
ただし、手術をすればOAを完全に防げるという意味ではありません。手術の目的はOA進行を大幅に遅らせて、生涯を無症状で過ごせることを目標としています。
Q10. 痛そうでなければ様子を見ても大丈夫ですか?
犬では、はっきり「痛い」と分かる症状が出る前から関節内の変化が進んでいることがあります。
特に、
- 歩き方が少し変わった
- 散歩の距離が短くなった
- 階段を避けるようになった
- 立ち上がりが遅くなった
- 以前より遊ばなくなった
といった小さな変化が、OAや整形外科疾患の初期症状であることがあります。
「痛がってから」ではなく、動き方の変化に気づいた段階で関節を評価することが大切です。
Q11. OAで一番大切なことは何ですか?
OAは、一度大きく進行すると元の正常な関節に戻すことが難しく、痛みも慢性化する可能性があります。
そのため大切なのは、
できるだけ早く原因を見つけ、関節への負担を減らし、OAの進行をできる限り抑えること
です。
変形性関節症は「年齢のせいだから仕方がない」と考えるのではなく、早期発見と適切な治療によって、その後の生活の質をできるだけ維持していくことが重要です。







