昔、整形の勉強を始めたばかりの頃、整形外科の器具を見て『惚れ惚れするな〜』と言っていた先生達の事をよく覚えています。正直、やばい先生達の勉強会に参加してしまったなと思っていました…。
最近、うすうす気付いてはいたのですが、先日の東京のドライラボセミナーで初めて使用した器具を見た時、確信してしまいました。私もやばい部類になってしまっていることを・・・。
でも、この変形矯正ジグという器具、本当に惚れ惚れです。
2025年7月に農林水産省の承認を受けて、日本でも販売を開始した変形矯正ジグという器具、見た目も惚れ惚れながら、たくさんの関節や歯車を搭載し、1度単位の角度で骨の角度を矯正することができる、その機能にも惚れ惚れな器具です。

変形矯正ジグとは
慢性経過のグレード3やグレード4のパテラ(膝蓋骨脱臼)症例では、膝のお皿の脱臼が引き起こす持続的な牽引力によって、多くの症例で大腿骨の変形が続発しています。
変形があっても、通常のパテラの手術方法を工夫することで殆どの場合で対応ができるのですが、変形が強い場合には、工夫にも限界があります。このような場合、変形してしまった大腿骨の変形を矯正(大腿骨遠位骨切術)する必要が出てくるのですが、この骨矯正の強い味方が変形矯正ジグとなります。
大腿骨の骨切術では、術前計画に沿って例えば、『大腿骨から4mmの楔状の骨の切り取って、骨軸を10度曲げてから、右方向の軸回転を20度加える』というような手技を行います。
5kgの小型犬であれば、大腿骨は人の小指よりも細い上に、矯正前の骨切りをしている骨はグラグラです。大型犬であれば『調整』が色々とできたとしても、小型犬の場合、細くてグラグラな骨に対して、術前計画の細かな指示を一発勝負で行わないといけないことがほとんどです。
角度が1度ずれただけでも治らないと言われることもある小型犬。この一発勝負を、目や指の感覚、完璧な手技で行うことも確かに『技術』なのですが、変形矯正ジグは、機械的な『技術』で、より安定的で正確は矯正を可能にしてくれます。
使用方法
術前計画で計算した、骨の曲がりや捻転の角度を予めジグにセットしてから、骨にジグを設置します。
変形矯正ジグの優れた点の一つ目としては、骨へ予めジグを設置することで、骨切り後の骨のグラグラが解消します。この事は、細く小さな骨の小型犬の手術においては大きな利点です。
骨切り後は、ジグにセットした各角度を、ジグの関節や歯車を、本来の正常な角度まで回すことで、ジグをセットされた骨がジグの関節の動きに追従するよう勝手に骨が動き、術者は骨に触れることなく、正常な角度になるまで骨が矯正されていきます。
術者の指が、骨の移動や保持に使用されないため、手術が円滑に進むという点が二つ目の優れた点であり、この二つの優れた点によって、手術時間の大幅な短縮が達成できます。
器具の歯車を回すだけで、骨がジグに追従して自動で動く様子は、『自動骨切機』みたいな感覚でした。
まとめ
私の知る限りとはなりますが、パテラグレード3や4の手術において、日本の獣医師は骨切術を併用しないで治療することの方が割合としては多いと感じています。理由は様々と思いますが、当院含めて、グレード3や4でも可能な限り工夫して、低侵襲で治してあげたいという想いからくるものだと想像しています。しかしながら、骨の変形が重症化した症例や、注目すべきは、パテラの手術を以前に受けたが再脱臼をしてしまう症例の中には高率に、工夫では対応できない骨変形が隠れていて、通常のパテラの術式では治せない症例が確実に紛れてこんでいます。
当院での現段階での変形矯正ジグの使用について
- はじめての手術の場合
骨切術の外科侵襲を考慮して、大腿骨内反角という骨の変形程度の目安が極端に高い症例以外は、基本的には通常の術式の組み合わせで対応。万が一、術後脱臼の発生の際に変形矯正ジグを用いた骨切術を併用。 - すでに他施設にてパテラの治療を受けているが再脱臼が発生してしまった症例の場合
通常の術式の再適応が難しいことも多く、また、骨変形が隠れている事が多く、はじめから変形矯正ジグを用いた骨切術の併用を計画。術前の骨変形の評価において変形程度が軽い場合には、通常の術式の再適応を検討。
色々な獣医療技術がすでに完成されたものかのように我々の前に常に君臨して見えてしまうのですが、そこから更に進化させようとする獣医師が世界には多くいます。固定概念に縛られないその研究心と、世に広めよとする行動力には常に脱帽です。しかしながら、私が目指すべき道はそこではなく、世に溢れる様々な最新の技術の中から、本当に動物や飼い主の方々のために誕生したもののみを集める事かなと思っています。
変形矯正ジグがもうすぐ当院にも納品されます。
とうりあえず、惚れ惚れと眺めようと思っています。







