痛がる様子はないのに、数歩の時だけ一瞬ケンケンしたり、ゆっくり歩いている時は普通に歩くのに、早く歩くとケンケンしたり。愛犬が、そんな一瞬スキップするかのような歩行を繰り返す際に考えられる疾患についてまとめています。
ご家庭でもできる見分ける触診ポイントを詳しく書いています。ご愛犬が最もリラックスできる環境であるご家庭での観察が、最も緊張する診察室での観察を上回ることがあります。
スキップ歩行が気になった際には、是非ご家庭での触診も挑戦してみてください。
目次
スキップ歩行のよくある原因
たまたま歩いているときに、トゲトゲした植物や硬い砂利を踏んでしまって数歩スキップするかのような歩行をすることはあります。しかし、何もない所でしばしばスキップ歩行を繰り返す場合、関節構造の『何か』が、正しい位置から外れたり入ったりすることで発生している可能性を考える必要があります。
スキップ歩行の代表的な鑑別疾患
①膝蓋骨脱臼(パテラ)~主原因~
膝のお皿が、滑車溝という溝から外れたり入ったりすることでスキップ歩行が発生します。
②長趾伸筋腱脱臼 ~稀な原因~
足の指を伸ばす役割のある長趾伸筋腱が、伸筋溝という溝から外れたり入ったりすることでスキップ歩行が発生します。
③浅趾屈筋腱脱臼 ~稀な原因~
踵を伸ばしたり、足の指を曲げる役割のある浅趾屈筋腱が、踵との接地面から外れたり入ったりすることでスキップ歩行が発生します。
④原因不明
触診で判別がつかない場合があります。スキップ歩行をする際に発生している力学的特性を触診で再現できない事が理由として考えられます。
触診方法

触診の際には、一次的に3本足になるので、3本足でも愛犬が安定して立てるように支えてあげる係と触診する係にわかれると触診がやりやすくなります。矢印はそれぞれ①パテラ、②長趾伸筋腱、③浅趾屈筋腱の位置を示しています。
触診のコツ
①パテラ
膝の屈伸させながら、膝の曲がる頂点を探してみてください。そこが膝のお皿です。イラストのように、二本の指で優しく膝のお皿を包み込みます。
次いで、足先を持ちながら、優しく足先を内側や外側にひねったり、膝の屈伸運動をしてみてください。パテラがある場合、いずれかの動きで、指で包み込んだ膝のお皿がガクッや、ヌルっといった感触で動きます。基本的には痛がりませんが、パテラ発症の初期では痛がることがあるため、無理な力はかけないようにしましょう。
②長趾伸筋腱脱臼
犬種体格によって若干異なりますが、膝のお皿の高さで足を横から見て、足幅を4分割した、お皿側の1/4に指を置きます(例:左手の親指)。ついで、右手で足先を持ち、膝を延ばした状態で、愛犬の足の指先を優しく曲げたり伸ばしたりして見てください。長趾伸筋腱脱臼があると、左手の親指に、コクっとした感触が伝わります。少し触診が難しい場所にはなりますが、脱臼があれば感触は伝わってきますので、大体の場所に指が置かれていれば大丈夫です。
③浅趾屈筋腱脱臼
人の『かかと』に相当する部位が③の位置です。この部位を膝のお皿を触る時と同じように、親指と人差し指で優しく包み込み、膝を延ばした状態で、かかとや指先を優しく曲げたり伸ばしたりして見てください。脱臼があると、コクっとした感触とともに、筋状のものがズレる感覚がわかります。
スキップ歩行以外の症状は?
いずれの疾患も共通して、次のような症状が見られることがあります。
- 後ろ足をかばう、びっこを引く
- 走った後やジャンプ後に悪化する
- 後ろ足の方を急に振り向く
- 足をよく舐める
抱っこしていると、人の指や腕に「コキッ」、「コクッ」とした感覚が伝わってくる場合もあります。
脱臼の原因
先天的/遺伝的な素因に加え、外傷や捻転力などの後天的な要因が加わって発生すると考えられていますが、多くの場合でパテラを含めて、まだ正確な原因はわかっていません。
直接的な原因としては、骨の解剖学的な形態異常によって脱臼が成立しやすくなっていることを理由に脱臼が発生すると考えられます。
診断
これら3疾患に対しては、基本的には触診による診断が可能です。スキップ歩行の大半がパテラによって発生し、長趾伸筋腱脱臼や浅趾屈筋腱脱臼は非常に稀です。稀な疾患を見逃さないためには、スキップ歩行の原因にパテラ以外の疾患がある事を常に念頭において触診する事が大切となります。
触診でスキップ歩行の原因部位が特定できたら、レントゲン検査を行います。レントゲン検査で、重症度判定や治療計画を立てます。重症度の高いパテラ疾患では、必要に応じてCT検査を実施して、より精密な評価を行う場合もあります。
治療について
長期間、脱臼を繰り返すことで、腱や膝のお皿の摩耗、関節周辺の軟部組織の慢性炎症、慢性疼痛の発生を防ぐ事を目的に、原則、外科治療が第一選択となります。
ただし、症状が軽い場合や年齢によっては、運動制限や内服薬、サプリメント等によって経過を見ることもできます。
ご自宅で気をつけていただきたいこと
愛犬のスキップ歩行に気付いた場合、足の裏の外傷や皮膚炎などの一時的な問題との鑑別も大切です。まずはじっくり足の裏の皮膚の観察してみて下さい。足裏に問題がなければ、以下の点に注意しながら経過をよく観察し、一日経っても治らない場合には動物病院を受診しましょう。
- ジャンプや階段、滑る床での歩行を避ける
- 散歩は排泄目的に限定し短時間
- 人用の痛み止めを自己判断で服用しない
- 膝やかかとの腫れ、熱感、痛みの観察
- スキップ歩行の様子を動画で撮影(診察の際に獣医師に見せる)
次のような場合は、早めにご受診ください。
- 足が全く着けない
- 足を触ると痛がる
- 元気や食欲が落ちる
- 熱があるような気がする
まとめ
スキップ歩行は、症状が軽く見えても繰り返す事で、足への負担が大きくなってしまう可能性がある症状です。また、小型犬に多いパテラに紛れて、長趾伸筋腱脱臼や浅趾屈筋腱脱臼が隠れている場合もあることから注意が必要です。
さらには、スキップ歩行の診断は難航する事も多くあります。
全く痛がる様子がなかったり、症状が散歩中のみであったり、触診だけでは診断がつかないケースもあったりと、単なる癖なのか疾患なのかの判別の段階から迷う事も多いという特徴があります。
診断がつかない場合には、主治医とよく話し合いながら、経過観察の方法やCT検査の追加の必要性やタイミングなどを相談する事が大切ですね。







